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[症例4] 微熱、全身倦怠感、乾性咳嗽、軽い労作時の息切れ

【症 例】72歳、女性

【主 訴】微熱、全身倦怠感、乾性咳嗽、軽い労作時の息切れ

【現病歴】20XX年4月頃から乾性咳嗽が出現し、近医を受診。肺炎の診断でセフェム系抗菌剤の投与を受けるも改善無く紹介となる。MRC 1度。

【既往歴】 特記事項なし 

【家族歴】 父親 心臓病、母親 糖尿病、兄 SAH

【薬剤歴】 特記事項なし 【職歴】 パートでレジ、粉塵吸入歴なし

【生活歴】 Never-smoker、機会飲酒、職業 専業主婦

【理学所見】
身長:(150) cm、体重:(51) kg 
RR:(16) /min、SpO2:(98) % (room air)
血圧:(110) /(54) mmHg
脈拍:(80) /min ( regular  irregular )
体温:(36.1) ℃
表在リンパ節触知しない
四肢:ばち指なし、チアノーゼなし
胸部:心雑音なし、明らかなcracklesは聴取せず
腹部:平坦・軟、圧痛なし

【膠原病診察、その他の理学所見】
両側clubbing:( なし )、 関節痛:( なし )、
関節腫脹:( なし )、 関節発赤:( なし )、
朝のこわばり:( なし )、レイノー現象:( なし )、
筋症状:( なし )、皮膚出血斑:( なし )、
ゴットロン徴候:( なし )、ヘリオトロープ:( なし )、
口腔、眼球乾燥感:( あり )、四肢末梢のしびれ:( なし )

【血液データ】
WBC 3900 /uL (Neut 66.9%、Lym 26.9%、 Mono 5.1%、Baso 0.1%、Eos 1.0%)、Hb 14.3 g/dL、Ht 42.3%、Plt 13.5×10⁴/uL、TP 7.3 g/dL、Alb 4.03 g/dL、TB 0.61 mg/dL、LDH 194 IU/L、GOT 39 IU/L、GPT 24 IU/L、γ-GTP 25 IU/L、BUN 11.8 mg/dL、Crea 0.51 mg/dL、Na 139 mEq/L、K 4.3 mEq/L、Cl 100 mEq/L、CRP 0.16 mg/dL、CK 57 IU/L、KL-6 345 IU/L、

【尿検査】
潜血(−)、蛋白(−) 尿沈渣異常なし

【胸部X線、CT

とくに基礎疾患が無く、乾性咳嗽と軽度の労作時呼吸困難あり。肺副雑音は聴取しない。

Q1 この時点での問題点と鑑別疾患は?

【Problem List】
1. 高齢女性、基礎疾患なし
2. 多発浸潤影
3. 肺副雑音なし
4. 炎症所見なし

【鑑別疾患】
感染症であれば、一般細菌感染症は考えにくく
1. 抗酸菌感染症

炎症性肺疾患として
1. 器質化肺炎(膠原病性肺病変を含む)
2. 慢性好酸球性肺炎

腫瘍性疾患
1. 肺胞上皮ガン 2. MALT

 

Q2 次にどういう検査を行いますか?

気管支鏡検査を施行。
気管支鏡検査では、総細胞数:15×105/ml、細胞分画:好中球 7%、リンパ球 35%、マクロファージ 49.8 %、Eo 8.2 %、CD4/8比 1.16
培養:一般細菌、抗酸菌ともに陰性
病理:腺がん細胞が認められた。

 

Q3 最終診断はなんですか?

【最終診断】膵癌からの転移性肺がん
【考察】
一般的には血行性やリンパ行性の転移形式をとるものが多いが、腺癌の転移性肺腫瘍のなかには細気管支肺胞上皮癌と同様に肺胞壁に沿った進展形式をとるものがあり、肺炎と類似した画像所見を塁することがある。CTでは浸潤影、すリガラス影が認められ、その内部にはair bronchogramや“angiogram sign"を伴っていることがあり, このようなCT像を呈するものとして膵癌や大腸癌,小腸癌のような消化管由来のものや乳癌や卵巣癌が報告されている。原発巣がはっきりしない場合には、免疫染色が有用なこともある。

 

【担当:Dr. M.T】

神経内科研究紹介

久留米大学神経内科では、谷脇教授、頼田助教を中心に機能的MRI(functional MRI)を用いた脳機能network 解析(脳科学)を行っています。過去には健常人,パーキンソン病患者の基底核ネットワークを解析してきました。

  1. パーキンソン病患者さんの中には,目標のない所を歩こうとする際に,第1歩目がなかなか出ませんが(自発運動),階段のように目標がある場合や号令が有る場合はスムーズに足がでます(外的運動).サルの実験では自発運動時は基底核回路(被殻―淡蒼球―視床―補足運動野―1次運動野),外的運動時は小脳回路(小脳皮質―歯状核―視床―運動前野―1次運動野)が活動すると報告されていますが,ヒトでは証明されていませんでした.私共は若年健常人を対象として,手指配列運動課題を自己ペースで行うと基底核回路,外的ペースで行うと小脳回路が活動することを証明しました(Taniwaki et al., The Journal of Neuroscience 23:3432-8, 2003).
  2. 次にネットワーク解析を加えることで基底核回路モデルを作成しました(Taniwaki et al., NeuroImage 31:745-753, 2006)
  3. また,高齢健常人を対象として,老化が基底核回路モデルに及ぼす影響を検討しました(Taniwaki et al., NeuroImage 36: 1263-1276, 2007).
  4. さらにパーキンソン病患者に同様の解析を加えて,視床―補足運動野経路の機能連関(connectivity)の低下を見出しました(Taniwaki et al., Brain Research 1512:45-59, 2013)

現在は臨床応用が容易な安静時機能的MRIにチャレンジしています.呼吸器内科の川山教授と共同研究を行い、呼吸困難感の脳内基盤、特に安静時ネットワークの解明を行っています。この研究は呼吸困難感を訴えるすべての患者さんへの臨床応用が可能となり、診断・病態機序解明に多いに役立つことが期待されます。

その他、神経疾患の疾患原因遺伝子同定や疾患関連遺伝子同定などを行っています。
 『疾患』は『遺伝要因』と『環境要因』の組み合わせで生じると考えられます。いわゆる単一遺伝病というのは『遺伝要因』がほぼ100%であり、一方、サリン中毒などは『環境要因』がほぼ100%の疾患といえます。当神経内科では、ひたすら『遺伝要因』にspotをあて、九州大学生体防御医学研究所ゲノミクス分野の理学博士の先生と共同で遺伝解析・遺伝子変異機能解析などを行い、『遺伝学的に(and/or臨床的に)新たな疾患単位確立』をし、最終的には治療法を開発することを目指しています。われわれの研究は実際に久留米大学神経内科で診察・検査をされた患者さんから始まっています。

 最近のネタを3つ紹介します。大まかな雰囲気を味わっていただければ幸いです。

【常染色体優性遺伝distal hereditary motor neuropathyの責任遺伝子変異同定
 顔面筋・胸鎖乳突筋の軽度筋力低下を伴う下肢遠位伸筋優位のmotor neuropathy家系についてエクソーム解析等を行ったところ、とある遺伝子XのTudorドメイン上にあるミスセンス変異が責任遺伝子変異候補として考えられました。同じ下位運動ニューロン疾患である脊髄性筋萎縮症の原因遺伝子SMN1遺伝子(survival of motor neuron protein 1)もTudorドメインを有していることから、遺伝子Xが本疾患の責任遺伝子の可能性が高いと考えています。なお、遺伝子Xの変異による疾患は今までに報告がありません。 *まだ発表していないため、遺伝子名はXとしてます。

GNB4遺伝子のミスセンス変異をもつ常染色体優性遺伝Charcot-Marie-Tooth病】
 GタンパクのコンポーネントをコードするGNB4遺伝子はDominant intermediate Charcot-Marie-Tooth disease F (CMTDIF)の原因遺伝子として知られていますが、CMTDIFは世界で3家系8名しか患者が報告されていない稀少疾患です。日本で初めてのGNB4遺伝子のミスセンス変異(この変異は世界で初めて)をもつCharcot-Marie-tooth病家系を見出したため報告しました(Miura S et al, Eur J Med Genet 2017)。

DDHD1遺伝子のフレームシフト変異をもつ常染色体劣性spastic paraplegia(SPG)】
 DDHD1遺伝子は常染色体劣性spastic paraplegia(SPG28)の原因遺伝子として知られているphosphatidic acid-preferring phospholipase A1をコードする遺伝子で、その活性化にDDHDドメインが必要であると考えられています。今回、われわれは、両親血族婚のspastic paraplegia患者についてDDHD1遺伝子のフレームシフト変異(この変異は世界で初めて)を見出し、日本で初めてのSPG28家系として報告しました。本変異ではtruncatedされたDDHD1タンパク発現が予想されます。しかしリアルタイムPCRによる検討を行ったところ、患者cDNAでは、DDHD1の発現自体が顕著に低下しており、nonsense mediated decayが生じていると推測されました(Miura S et al, Eur J Med Genet 2016)。DDHD1ノックアウトマウスではspastic paraplegiaは生じないという他国の論文に納得がいかなかったため、独自にDDHD1ノックアウトマウスを作成したところ、12ヵ月経過して少し症状が出ているかも(しっかりとしたウラはとれていない)という状況です。


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