久留米大学神経内科では、谷脇教授、頼田助教を中心に機能的MRI(functional MRI)を用いた脳機能network 解析(脳科学)を行っています。過去には健常人,パーキンソン病患者の基底核ネットワークを解析してきました。
現在は臨床応用が容易な安静時機能的MRIにチャレンジしています.呼吸器内科の川山教授と共同研究を行い、呼吸困難感の脳内基盤、特に安静時ネットワークの解明を行っています。この研究は呼吸困難感を訴えるすべての患者さんへの臨床応用が可能となり、診断・病態機序解明に多いに役立つことが期待されます。
その他、神経疾患の疾患原因遺伝子同定や疾患関連遺伝子同定などを行っています。
『疾患』は『遺伝要因』と『環境要因』の組み合わせで生じると考えられます。いわゆる単一遺伝病というのは『遺伝要因』がほぼ100%であり、一方、サリン中毒などは『環境要因』がほぼ100%の疾患といえます。当神経内科では、ひたすら『遺伝要因』にspotをあて、九州大学生体防御医学研究所ゲノミクス分野の理学博士の先生と共同で遺伝解析・遺伝子変異機能解析などを行い、『遺伝学的に(and/or臨床的に)新たな疾患単位確立』をし、最終的には治療法を開発することを目指しています。われわれの研究は実際に久留米大学神経内科で診察・検査をされた患者さんから始まっています。
最近のネタを3つ紹介します。大まかな雰囲気を味わっていただければ幸いです。
【常染色体優性遺伝distal hereditary motor neuropathyの責任遺伝子変異同定】
顔面筋・胸鎖乳突筋の軽度筋力低下を伴う下肢遠位伸筋優位のmotor neuropathy家系についてエクソーム解析等を行ったところ、とある遺伝子XのTudorドメイン上にあるミスセンス変異が責任遺伝子変異候補として考えられました。同じ下位運動ニューロン疾患である脊髄性筋萎縮症の原因遺伝子SMN1遺伝子(survival of motor neuron protein 1)もTudorドメインを有していることから、遺伝子Xが本疾患の責任遺伝子の可能性が高いと考えています。なお、遺伝子Xの変異による疾患は今までに報告がありません。 *まだ発表していないため、遺伝子名はXとしてます。
【GNB4遺伝子のミスセンス変異をもつ常染色体優性遺伝Charcot-Marie-Tooth病】
GタンパクのコンポーネントをコードするGNB4遺伝子はDominant intermediate Charcot-Marie-Tooth disease F (CMTDIF)の原因遺伝子として知られていますが、CMTDIFは世界で3家系8名しか患者が報告されていない稀少疾患です。日本で初めてのGNB4遺伝子のミスセンス変異(この変異は世界で初めて)をもつCharcot-Marie-tooth病家系を見出したため報告しました(Miura S et al, Eur J Med Genet 2017)。
【DDHD1遺伝子のフレームシフト変異をもつ常染色体劣性spastic paraplegia(SPG)】
DDHD1遺伝子は常染色体劣性spastic paraplegia(SPG28)の原因遺伝子として知られているphosphatidic acid-preferring phospholipase A1をコードする遺伝子で、その活性化にDDHDドメインが必要であると考えられています。今回、われわれは、両親血族婚のspastic paraplegia患者についてDDHD1遺伝子のフレームシフト変異(この変異は世界で初めて)を見出し、日本で初めてのSPG28家系として報告しました。本変異ではtruncatedされたDDHD1タンパク発現が予想されます。しかしリアルタイムPCRによる検討を行ったところ、患者cDNAでは、DDHD1の発現自体が顕著に低下しており、nonsense mediated decayが生じていると推測されました(Miura S et al, Eur J Med Genet 2016)。DDHD1ノックアウトマウスではspastic paraplegiaは生じないという他国の論文に納得がいかなかったため、独自にDDHD1ノックアウトマウスを作成したところ、12ヵ月経過して少し症状が出ているかも(しっかりとしたウラはとれていない)という状況です。
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